11月26日 愚者

大好きだった作家の伊集院静が旅立った。全ての作品を読んだと云えばオーバートークになるが、かなりの数の作品を読んでいるのは間違いない。競輪、麻雀、競馬、そして酒と女。これほど自らの欲望と真正面から取っ組み合いをした作家は稀有である。我がニホリカ競馬会の至宝武豊Jも、伊集院静に魅了され、慕ってやまない1人である。

井上陽水の『少年時代』の歌詞の中で、風あざみと云う花の名前が出てくるが、実際はこのような名前の花はない。伊集院静の作品、特に短編の中にも、これでもか、これでもかと云うぐらい花の名前が出てくる。その殆どが聞いた事すらない名前だが、ググると必ずヒットする。その造詣の深さには驚くばかりだ。しかも、その小説に流れる空気にマッチしているのだから、これは痺れる。

ストーリーテイラーとしての才能だけではなく、細かい才にも長けていた。そんな伊集院静だが、小説だけでなく作詞家としても超A級。大ヒットを数々飛ばしているが、競馬場で、場外で、やられてポケットの小銭を数えながらの立ち飲み屋で、いつも頭の中に流れていたのが、近藤真彦の『愚か者』。競馬に淫している自分がホトホト嫌になる状況にマッチングしていた。

心の兄貴。伊集院静の冥福を心から祈る。

「何やってんだ!ふざけんじゃねえ」テレビに向かって怒声を上げた北新地の盆暗。『マイルCS』不動の本命ルメールJのシュネルマイスターが出遅れるは、二の脚はつかないわ。直線でもまるで弾ける事なく、川田J2番人気セリフォスと7.8着争いをしているのだから話しにならない。5万円とちょいが太陽に照らされた冬の初めの雪のように溶けた。それが先週の日曜日の事である。

「マスター、おはようございます。先週は酷い目に会いましたね」は堂々プライム企業で禄を食むK君。円安で未曾有の好景気に、今からボーナスが楽しみだと云うのだから、大したものである。「あんなふざけた競馬してたらJRAに明日はねえよ。ルメールも川田もチョボくれやがって。5万返せっちゅうの」。JRAの心配より自分の心配をしないといけない、日曜日の朝。お約束、ボヤキ道場である。

「そうですね。あっと気が付けば来週からは12月。今年も残すところ僅かとなりました。これからは怒涛の当たりの連発をお願いします」「お願いされてもセンスゼロだから、どうしようねえよ。毎日、シミの浮いた天井を見ながら、競馬なんて始めた責任者出て来いや!俺をポアする気か!で高田総統やってるっちゅうの」

「まあ、まあ。継続は力。その内いい事ありますよ」「へ!適当な事云いやがって。俺ぁ頭に来てんだ。今日の世紀の一戦『ジャパンカップ』。地球を3周してもルメールのイクイノックスと将雅のリバティアイランド二頭の世界。ワイド一点だ」「えらい自信ですね。お幾ら万円ほど?」「10万!」「え!大丈夫ですか?」「生粋の愚か者だからよ」「……………….」

黄泉の国に旅立った伊集院静のメガヒット『愚か者』にシンパシーを感じてのワイド一点勝負。ここは当たって欲しい!

2015年からスタート、9年に渡り連載。

1266回を数えた『北新地競馬交友録』。

お役ごめんのメール一本で終了です。

こちらで、毎週、日曜日連載予定です。

宜しくお願い申し上げます。

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